ヤング図形のRS対応とPlancherel測度
表現論的組合せ論という分野をちょこっと勉強したのでそのまとめ(というか例のごとくメモ)です. 自然数の分割とヤング図形の対応, n次対称群と標準盤とのRS対応, ヤング図形の極限形状までを概観します.
分割とYoung図形
分割
定義(分割)
自然数についてとなる自然数を用いてと表すことをの分割といい, と書く.
の分割の全体の集合のことをと書く. すなわち
\begin{align} \mathcal{P}(n) = \left \{ (\lambda _1 , \lambda _2 , \cdots ,\lambda _l) \ ; \sum _{i=1}^{l} \lambda _i = n , \ (\lambda _1 \ge \lambda _2 \ge \cdots \ge \lambda _l \ge 0)\right \} \end{align}
である.
の元の数, すなわちの分割の総数を分割数といい, で表す.
例) のとき.
の元, すなわち自然数の分割をすべて書くとであり, .
分割数の母関数表示
未満のについての形式的べき級数
\begin{align} \frac{1}{1-x^k} = 1 + x^k + x^{2k} + x^{3k} + \cdots \ (k=1,2,3,\ldots) \end{align}
を用いて分割数の母関数表示を与えられることが知られています.
定理(分割数の母関数表示)
形式的にとする. このとき,
\begin{align} \prod _{k=1} ^{\infty} \frac{1}{1-x^k} = \sum _{n=0} ^{\infty} p(n) x^n \end{align}
つまり左辺をn次の項まで級数展開すれば, そのn次の項の係数が分割数と対応しているということです.
Young図形(ヤング図形)
定義(Young図形)
大きさの等しい個の正方形(ハコ)を上詰めかつ左詰めに並べたものをサイズのYoung図形という.
サイズのYoung図形全体をと書く.
例) のYoung図形を列挙すると以下のようになります.
ここで重要なのはサイズのYoung図形について, 各行のハコの数の組がの分割に対応しているということです.
つまり以下の定理が成り立ちます.
定理
\begin{align} y(n) & \tilde{\longrightarrow} \mathcal{P}(n) \\ \lambda & \longmapsto (\lambda _1 , \lambda _2 , \cdots ,\lambda _l) \end{align}
が存在する.
サイズのYoung図形と自然数の分割には一対一対応の関係が成り立つことから, 通常サイズのYoung図形の型を自然数の分割の書き方で書き表します.
盤(tableau)と標準盤(standard tableau)
定義(盤, 標準盤, 型)
サイズのYoung図形のハコの中にまでの自然数を1度ずつ書き入れたものを盤(tableau)という.
このとき盤について, 元のYoung図形をの型(shape)という.
また, 盤に書き入れた自然数が, 各行ごとに左から右に単調増加でかつ各列ごとに上から下に単調増加となるとき, を標準盤(standard tableau)という.
Young図形に対して, を型とする盤全体をと表します. 同様に, を型とする標準盤全体をと表します.
例) 標準盤(n=6)
Young図形上の確率測度
何もない状態からハコを上詰め左詰めで1つずつ並べていき, サイズのYoung図形ができた時点で, 今度はハコを1つずつ取り除いていき, 何もない状態に戻す過程を考えます.
例えばとしたとき, 以下の6通りの過程が考えられます.
今の6通りの中ではのYoung図形が最も多く出現している(4回)ことがわかります.
では一般のに対してこの過程を行ったとき, サイズYoung図形のなかでもっとも出現確率が高いものは何かということを考えます. そのためにまずYoung図形上の確率測度を与えなければなりません.
結論だけ言えば, 型がである標準盤の個数を用いると, 型がのYoung図形の出現率は以下のように表せることが知られています.
\begin{align} \mathbb{P}_n (\lambda) = \frac{d_{\lambda} ^2}{n!} \end{align}
この確率測度はPlancherel測度と言われています.
ちょっと細かい話をするとこの測度は次対称群と, 型の標準盤同士の直積空間の間に全単射が存在するという事実から導かれます. この全単射をRobinson-Schensted対応(RS対応)といいます.
次対称群と, サイズのYoung図形からなる標準盤全体に対して全単射
\begin{align} S_n & \tilde{\longrightarrow} \bigcup _{\lambda \in \mathcal{P}(n)}(STab(\lambda) \times STab(\lambda)) \end{align}
存在する.
この両辺のをとることでを得ます.
例) のYoung図形の出現率
サイズ4のYoung図形の型はの5つ. このそれぞれに対して標準盤を列挙してみると以下のようになります.
したがって,
\begin{align} d_{(4)} &= 1\\ d_{(3,1)} &= 3\\ d_{(2,2)} &= 2\\ d_{(2,1,1)} &= 3\\ d_{(1,1,1,1)} &= 1 \end{align}
であり, それぞれの出現率は
\begin{align} \mathbb{P}_4 (4) &= \frac{d_{(4)} ^2}{4!} = \frac{1}{24} \\ \mathbb{P}_4 (3,1) &= \frac{d_{(3,1)} ^2}{4!} = \frac{9}{24}\\ \mathbb{P}_4 (2,2) &= \frac{d_{(2,2)} ^2}{4!} = \frac{4}{24}\\ \mathbb{P}_4 (2,1,1) &= \frac{d_{(2,1,1)} ^2}{4!} = \frac{9}{24}\\ \mathbb{P}_4 (1,1,1,1) &= \frac{d_{(1,1,1,1)} ^2}{4!} = \frac{1}{24} \end{align}
よって, のときは
が最もよく現れるということがわかりました.
同様にで試してみると左から順に
が最もよく現れることがわかります. なんとなくなめらかな階段状に並ぶ形が出現しやすいのかなということが予想できます.
ヤング図形の極限形状(n → ∞)
ではのときYoung図形はどのような形に収束するのか. 各列の右端のハコの右上の頂点を連続的に結んだときの曲線の形(極限形状)は以下の式で表されることがVershik-Kerovによって明らかにされています.
(※図はヤング図形を135度左に回転させたものと見る.)
ちょっと導出までは書く元気がありませんでした...
これ以上はまだよく勉強できていないのですが, 自由確率論と強い関わりがあるのだそう. 容器内の流体の動きとかもこのアプローチでモデル化できるのかなと思ってみたり. これを通して表現論, 特に対称空間理論と表現論的組合せ論にふわっと興味が出てきました.