上野の森美術館「世界を変えた書物展」アインシュタインの直筆も
先日, 上野の森美術館へ「世界を変えた書物展」を見に行ってきました。ちょうどオフの日でアートに触れたくなったのです。文明を切り開いた科学の初版本が入場無料で観れると聞いてワクワクしながら行きました。今回展示されている書物はすべて金沢工業大学の書庫に保管されているコレクションだそうです。金沢工業大学すげえええ。
概要
[世界を変えた書物]展
もしコペルニクスが地動説を説かなければ、太陽は地球の周りを周り続けたかもしれません。もしニュートンが万有引力を発見しなければ、もしダーウィンが生物の進化を体系化しなければ......。彼らは間違いなく、世界に対する認識を一変させた人類の叡智です。そして、彼らの意見を広く世に伝えた物が書物なのです。そんな稀覯な初版本を目の当たりにする絶好のチャンス、それが『世界を変えた書物』展です。
本展では、金沢工業大学が所蔵するコレクション"工学の曙文庫"から選りすぐられた稀覯書の数々を、わかりやすく展示公開します。人類の叡智の未曾有にたたえる「知の森」を辿る旅が、あなたにとっての刺激的な出逢いと豊かな気づきの場になれば幸いです。
[世界を変えた書物]展 公式パンフレット
1445年にヨハネス・グーテンベルクが活版印刷技術を発明したことによりあらゆる書物が大量出版され圧倒的に広く情報が共有されるようになりました。科学技術書もその一つで, 古書特有の美術品的価値を伝えることと, 知の連鎖により文明が発展してきたことを訴えるということが今回の展示のテーマになっているようでした。
インスタ映えな「知の壁」
展示はハリポタに出てきそうな高さ4mぐらいある本棚に囲まれた「知の壁」というエリアから始まります。薄暗い部屋に壁一面に古書が並べられてる光景は文字通りインスタ映えでした。
写真撮影OKということで, 案の定みなさん写真をパシャパシャしてました。展示を見に来たんだかインスタ用の写真を撮りに来たのかわからないような人もチラホラ。ここでは建築に関する書物がショーケース展示されていました。建築学の書物もあれば美術品としての側面から建築を評論した書物もありました。また, アインシュタインの自筆研究ノートや, トーマス=エジソンのメモ, 世界初の動力飛行に成功したことで有名なライト兄弟の弟・オーヴィル=ライトの航空協会競技会認可証の自筆署名なども展示されていました。
偉人の自筆なんて趣深いですね。
世界を変えた科学書の数々「知の森」
次の「知の森」エリアでは世界を変えた科学的発見・技術的発明に関する原書が, 「古代の知の伝承」「ニュートン宇宙」「解析幾何」「力・重さ」「光」「物質・元素」「電気・磁気」「無線・電話」「飛行」「電磁場」「原子・核」「非ユークリッド幾何学」「アインシュタイン宇宙」の13のジャンルに分けられてショーケース展示されていました。なかでもCheck20と題して注目の有名書物がリストアップされていました。
注目の書物20冊
- インドールス「語源学」(1472)
- ユークリッド「原論(幾何学原本)」(1482)
- アリストテレス「ギリシア語による著作集」(1495-1498)
- レギオモンタヌス「アルマゲスト(偉大なるプトレマイオス)」(1496)
- アルキメデス「四辺形, 円の求積法」(1503)
- コペルニクス「天球の回転について」(1543)
- ケプラー「新天文学」(1609)
- ガリレオ「星界の報告」(1610)
- ニュートン「自然哲学の数学的原理(プリンキピア)」(1687)
- デカルト「方法序説」(1637)
- フック「微細物誌」(1665)
- ヒエロニムス「真正蒸留法」(1500)
- エジソン「ダイナモ発電器・特許説明書」(1884)
- ウィルバー・ライト「航空実験」(1901)
- レントゲン「新種の輻斜線について」(1895)
- キュリー「放射性物質の研究」(1903)
- 湯川秀樹「素粒子の相互作用について」(1935)
- ダーウィン「種の起源」(1859)
- アインシュタイン「一般相対性理論の基礎」(1916)
現在の科学・工学の礎になっている発見や発明に関する原書はずっしりしていて見応えがあります。活版印刷特有のインクのかすれやずれ, 同じ物なのにどこか1つ1つに違いを感じる次のフォントなどは古書ならではの物だと思います。
上の画像の中央あたり, 印刷をこすって消したのでしょうか? 修正を加えた跡があって, これは現代の書物では見られないものだなと思って見ていました。
縁がボロボロになったり湿気などで変色した紙, 色あせた表紙に美術的価値を感じました。
ユークリッドが紀元前に書いた「原論(幾何学原本)」です。数学の基本的な公理を体系化したもので, 聖書に次いで世界で最も読まれている書物と言われており, 数学の地位を確立した一冊です。数学徒的にはこれがいちばんハマりました。
こちらはレギオモンタヌス「プトレマイオスのアルマゲスト概要」。プトレマイオスによって書かれた天動説を唱える「アルマゲスト」を一般に理解されるように概要としてまとめたものです。これは挿絵ですが, 宇宙が地球を中心とした球形であるというそれまで信じられていた天動説を芸術的に表しています。正座を絵で表現しているところが面白いです。
インスタレーションアート「知の繋がり」
科学・工学の世界では, 他の発見や発明に影響されて新たな発見や発明があるということが多々あります。あらゆる概念が互いに影響し合って発展してきた歴史があります。書物名が書かれたパネルを関連度に合わせて立体的に組み合わせ, 叡智の繋がりを表したオブジェが個人的に印象に残っています。
知を共有することで, 知と知の融合から新たな知が生まれ, 人と人との出会いが生まれ世界が前進していく姿を象徴しているように見えました。